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精神医療とスピリチュアリティ

~こころの治療・癒し・科学を考える~

 

杉岡 良彦(上野病院)

 

 

【講義概要】

 

 こころを病む人たちに、公認心理師や精神科医は何ができるのでしょうか。基本的な問いですが、わたしはこのような疑問を常に感じています。フロイトが「宗教は様々な神経症を引き起こす」と指摘し(『幻想の未来』)、また現在、精神医学の主流は生物学的精神医学になっています。その一方で、緩和ケアにおいては、スピリチュアルペインの概念が導入され、医療の中でもスピリチュアルな問題を考慮しつつあります。さらに、スピリチュアリティと健康に関する科学的研究も多数発表されています。本講義では、こうした科学的研究を紹介しながら、スピリチュアリティに関する科学的研究の意義と限界、さらに精神医療における人間観の問題について、要点を整理します。

 さらに、「こころの癒し」というより広い文脈から、精神医療を考えてみたいと思います。かつてこころの癒しの多くは、洋の東西を問わず、宗教的文脈の中で実践されていました。臨床現場では、こっそりそうした宗教的治療を実践している人々に出会います。われわれはそうした治療やクライエントに対し、どのように接するべきでしょうか。心理療法のすそ野に広がる多様な文化を「排除」するのではなく、こうした問題を考えることにより、現在の「こころの病」に対するわれわれの立ち位置の特異性が逆にあぶりだされてくるように思います。

 上記の考察を経て、最初の疑問を念頭に置きながら、スピリチュアリティを考慮に入れて精神医療を実践する意義に関し、精神療法による症例を具体的に紹介しつつ、皆さんと共に考えてみたいと思います。