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(1) 発達特性論
~特性理解からレジリエントな生き方を考える~
(2) 発達特性と医教連携
~支援者ができる関わりについて~
石原 剛広(兵庫県立尼崎総合医療センター)
【講義概要】
(1)発達特性論
近年、家庭における虐待、不登校やいじめ、教師の体罰、成人期のひきこもりのケースなどの社会的問題が増えています。その多くが、発達特性(発達障害)をもつ子どもと周囲の環境の間に生じる二次的な問題(二次障害)と捉えることができます。とくに軽度の発達特性(発達障害)の子どもたちは、乳幼児健診では指摘されることはほとんどなく、定型発達のこどもとほとんど見分けがつかないまま、「他の人と同じように生きていかなければならない」という最も苦手とする命題を抱えながら、周辺環境に放り込まれて育っていきます。周囲の無理解で叱責や体罰を繰り返されたり、いじめや仲間はずれの対象となったり、定型発達の学習法に馴染めず学習についていけなくなるなど、家庭や学校で生きていくことが大きなストレス因として働き、結果的に自律神経症状やからだの痛みといった身体症状やいきしぶり・不登校といった二次障害に至ります。
発達の特性があるということは、障害があるということではなく、「できることとできないこと(凸凹)が際だっている」ということです。発達特性をもつ人は全人口の30%程度と考えており、多くの人が環境に適応し暮らし、中にはその特性を最大限伸ばし人類に貢献をもたらしている偉人たちも多く存在します。ただ、発達特性をもつと人生の逆風にさらされることが多いのも否定できません。まず、発達特性をもつ子どもにとって大切なことは、親や周囲の人の理解のもと、人と比べられることなく、得意なものや興味のあることを存分にできる環境で育つことです。自尊感情(自己肯定感)が育ち、居場所や理解者がいる環境で育つことができると、ある年齢になると、それまでのつまずきや失敗を振り返り、環境に適応するための方法を考えることができるようになります。発達特性をもつ人は、子どものうちは環境で、大人になってからは自分で気づくことで、「レジリエントな生き方」ができると考えています。
およそ専門的ではない用語で様々な雑談をお話させていただきます。参加される方の発達特性の新たな気づきの機会になれば嬉しく思います。
(2)発達特性と医教連携
不登校やひきこもりの子どもたちが増えています。医療で起立性調節障害(自律神経症状のひとつ)と診断されて経過観察されるケースや、学校では本人の無気力さ(学習意欲の無さ)や家庭背景(養育能力の問題や兄弟の不登校)が原因とされ、長年にわたって不登校が続き、学習できる居場所がなく、ただただ家でゲームをするだけで、生きていくために必要な適応力を身につけられない子どもたちが地域に多く存在しています。
小児科児童精神外来で診療している中で、そういったケースのほとんどにおいて、発達特性が関係していることがわかってきました。軽度の発達特性(発達障害)は定型発達の子どもとほとんど区別がつかないため、医療機関や発達相談において指摘されないことが多く、人知れず学校の中で困っています。集団の中で孤立したり疎外感を感じたり、関わりにくさを感じる教師(親も)からの厳しい指導(叱責)が入ってしまい、結果として二次的な問題(二次障害)に発展していきます。
さまざまなケースをみていくと、親だけでなく、学校教師も発達特性をもつ子どもの理解と対応に困っていることが明らかになってきたため、個別のカンファレンスだけでなく発達特性の理解を促すための学校研修をするなど、外来診療と併行して積極的に学校訪問し、外来開設当初より医教連携を推進してきました。また、親に向けたペアレントトレーニングを学校に適応するという考えから、平成27年以降、医教連携の一貫として地域の学校や園においてティーチャートレーニング研修を実施し、一定の成果をあげています。平成29年からは発達特性事例検討会を年4回開催し、毎回80名近くの医療・教育・行政・福祉・地域の専門機関の関係者が参加されています。当事例検討会は、特性のある子どもたちの「つなぎ」と「かかわり」について、いろいろな立場から考え、議論する場として機能しています。
合理的配慮やインクルーシブ教育という概念や制度が実態に即していないことが多く、エビデンスや前例のない取り組みには消極的である教育や行政の問題がある中、当外来における医教連携の取り組みの実績についても触れつつ、発達特性と医教連携の今後の支援のあり方について一緒に考える機会になればと願っています。